目次 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
卵生メダカ飼育ガイド
著 岡田 暁生

3:購入すると決めたら?

3.1:必ず水槽は空回しする

卵目を飼おうと決めたら、まず水槽をセットしよう。30センチ水槽が一番使いやすい。10リットル弱のアクリルケースでもいい。底には砂を入れないベアタンク。これは、卵目の場合、何かと掃除したり採卵したりするのに、砂があると不便だからである。水中には水質保全のためにウィローモスやリシア(浮き草として使用する)やアマゾン・フログピットや二テラやスプライトなどをたっぷり入れる。照明はこれらの水草が茂る程度(一灯)で十分。アフィオセミオンとシノレビアスなら、フィルターは入れても入れなくてもいい。ベタ飼育等の経験がある人なら、ごく弱いエアレーションだけでも、止水でもかまわない。大食漢のノソブランキウスにはフィルターは必須。フィルターはスポンジ式ないし投げ込み式を使うが、エアレーションはごく弱めにする(一秒間に泡が数個出る程度が目安)。卵目は強い水流を嫌う。アフィオセミオンの仲間は、小さな隙間から信じられないようなジャンプをする。フタは一部の隙もないようにしておこう(シノレビアスやノソブランキウスはあまりジャンプしない)。

この状態で最低でも一週間は空で水槽を回す。水温は、アフィオセミオンで20度、シノレビアスやノソブランキウスで25度くらいを目安にしよう。購入したての水槽はバクテリアが繁殖しておらず、急激に水が悪化したりする。新品水槽にいきなり魚を入れるようなことは絶対にやめておく。状態のいい水草水槽等があるなら、その捨て水を少し加える。ろ過バクテリアを繁殖させるためだ。ショップから種水をもらってきてもいい。水も装置も完全に新品の状態から水槽を立ち上げるのは、卵目の場合特に危険である。


アフィオセミオン ロロフィア ゲリアイ、レッド
新しい水槽にまずは水草とラムズホーンを入れ、ラムズホーンに餌を少量ずつ与え(残った冷凍赤虫など)、ラムズホーンの調子を見ながら、水槽の水がベストコンディションであると判断した時点で魚を導入するというやり方をしている人もいる。この方式だと抜群に水槽の立ち上がりが早く、水が澄むようである。

いずれにせよ、空水槽がある場合は、そこに入れる魚がなくとも、適当に水と水草とラムズホーンを 入れておいて空回ししておくに限る。こうやっておくと、どんなときでも(例えば緊 急避難用など)すぐにそこに魚を放り込むことが出来る。

3.2:個体の選び方と導入

ショップで購入する場合、腹が引っ込んでいたり、ヒレをたたんでいたり、水槽の奥に引っ込んでいるような個体は絶対に買わない。他の熱帯魚と違って卵目の場合、弱った個体を立て直すことはまず不可能だ。再三言うが、ワイルドものや海外ブリードのものは、初心者のうちは絶対に避ける。卵目は輸出入のときに使用される薬品に弱く、こじれをおこしている可能性が高い。初心者のうちは、日本の水に慣れていて輸送ストレスも小さい、国内ブリードもの、とりわけ近所に住んでいるアマチュアが繁殖させた魚を購入するのが安全である。また卵生メダカ(特にノソの中級種以上)は、成魚になるほど違う水に慣れにくい。出来るだけ三センチくらいの若い個体を選ぼう。フルサイズのラコビーなど、目を見張るほど美しいが、購入後10日ももたずに頓死することがある。ベテランでない限り、フルサイズの卵生メダカは絶対に購入してはならない。カタログ等で見る華麗なメダカとは程遠い、地味でまだ色が出ていない幼魚を購入するのが無難である。

3.3:水あわせ

ショップから届いたメダカはこうして雄雌に分けて袋に入っている

導入の際に特に注意するのは、最初の水あわせだ。卵目は慣れた水だと非常に丈夫だが、育った土地と違う水に急に入れられることを嫌う。導入時の水あわせはとにかく気長に。一見面倒だが、この手間を省くと、購入一週間で頓死したりすることがある。自家繁殖させているブリーダーやショップから購入するなら、出来るだけ多くの水をもらってくる。そして用意してある水槽の水を一度全部抜き、そこにもらった水ごと魚を入れて、毎日数センチずつ水深を深くしていく。ショップのところで繁殖したのではない個体を購入する場合、余分な水は捨てて、まず魚を小さなプラケに移す。水深数センチでかまわない。そしてサイフォン方式で自分の家の水をゆっくり足していく。プラケに水が2センチ入っているとしよう。最初の日は水量が倍の4センチになるようにする。二日目にはさらに8センチになるように水を足す。この間はかわいそうでも餌はやらない。なおプラケにヒーターは入っていないから、冬場は当然水温が下がるが、アフィオセミオンやシノレビアスで15度、ノソブランキウスで18度くらいまでなら絶対に大丈夫。あまり水温を気にせずに水合わせしてほしい。

魚を落ち着かせるために、プラケにはウィローモスなどを入れておく。飛び出し防止のためフタはきっちりしめておこう。水あわせの際にオスとメスを同居させたり絶対にしてはならない。特にアフィオセミオンの場合、オスがメスを攻撃して殺してしまったりする。そして3日目になってようやく、普通の熱帯魚のように温度合わせをして、水槽に放す。

3.4:水あわせが難しい魚

ラコビーエメラルド゛

導入時の水あわせにあまり神経質にならないでよいのは、アフィオセミオンやいわゆる「ヒカリモノ」(ランプアイやプロカトーパスなど)の仲間だ。シノレビアス系の場合、あまりアバウトなことをやると、突然ベリースライダーになったり、急に調子が狂うことがあるので、少し注意が必要。最も水あわせに慎重にならなくてはならないのがノソブランキウスの仲間で、この連中はしばしば「頓死」をおこす。
ラコビーやエガーサイといった中級以上の魚については、いやがうえにも慎重な水あわせが必要である。例えばファーザイのような超上級種は、次のような水あわせをやってちょうどである。

  1. ショップに大量の飼育水を送ってもらうように言っておく。
  2. 魚が来たら、魚を導入するつもりの水槽から、まず水を全部抜く。
  3. そこへショップに送ってもらった水と魚を入れる。水深が2センチくらい。何とかヒーターが水を被るようにする。もし水深が浅くて、ヒーターが空中に露出してしまうのなら、水草、ガラス瓶等を大量に入れて、水深が出来るだけ深くなるように工夫する。
  4. 点滴方式でゆっくりゆっくり水を入れる。最初の日は5ミリ程度。くれぐれも、いきなり5ミリ分の水を一気に入れないように!
  5. 2日目もゆっくり何回かに分けてさらに5ミリ。水深現在3センチ。
  6. 1週間くらいかけて、毎日1センチずつ増やす。この間、餌は極力控えめに。
  7. やっと水槽が一杯になったら、アフィオやシノレビアスの場合、導入して2週間目くらいして底水を2センチくらい抜いて足し水をする。

状態がよければ、導入して3週間くらいは水換えすらしなくていい。そして1ヶ月半くらいの間は、この2センチほどの小換水を1週間から2週間に一度するだけで十分だ。くれぐれも水を換える量が少なくてもすむように、餌は少なく。毎日赤虫数本で十分。出来れば1週間に一度は絶食の日を作る。
新しい水の好きなノソの場合は少しやっかいだ(これがノソを成魚で導入する難しさでもある)。餌はやはりピンセットで一つまみくらいは与えた方がいいだろう。その代わり水が汚れるので、毎日足し水していって水槽が一杯になったら、今度は毎日1センチ(あるいは数日置きに数センチ)の水の交換を行う。面倒なようだが、これが一番万全である。慎重に水あわせをしたかいあって、魚が慣れてくれたように見えても、油断は禁物。導入から10日後くらいに、「もう大丈夫だろう」と、いきなり通常の三分の一くらいの水換えをやったりしたら、あっという間にお陀仏である!

2.卵生メダカの特異さ | 4.種水の用意