6:餌について
- 6.1:餌のやりすぎは禁物!
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導入した成魚には冷凍赤虫をやる(稚魚および幼魚の餌については後述)。アフィオセミオンは乾燥餌を食べるが、水が悪化しやすいので注意。とりわけ重要なのは、最初の10日くらい、極力餌を控えめにすることである。特にノソブランキウスの仲間はとんでもなく大食だが、かわいそうだからと腹いっぱい餌をやると、確実に数日後に死んでしまう。最初の10日(本当は一ヶ月と言いたいところだが)は、魚がまだ水に完全に馴染んでいない。また立ち上げて間もない水槽なら、ろ過バクテリアが十分に繁殖していない。そこに大量の餌をやると、あっという間に排泄物で水が汚れてしまうのである。慣れてくれば一日一回から二回、腹八分程度に餌をやる。週1日は「絶食」の日を作ろう。
健康維持に絶大な効果がある。餌の残りを水槽に放置するようなことは絶対にしない。「餌を大量にやらない」が(特に初心者のうちは)鉄則である。うまく自宅に導入した卵目を死なせてしまう原因の九割が、餌のやりすぎだ。
- 6.2:生餌の充実
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欧米に比べて日本のアクアリストが著しく遅れているのが、生餌の充実だ。欧米の愛好家では1週間に一度くらい、プランクトンネットを片手に、近所の沼や池や川に生餌を採集しにいくのを日課にしている人も多い。
またドイツなどでは、ショップでありとあらゆる生餌が、使いやすい小パックにして売られていたりする。生きアカムシ、黒ボウフラ、ミジンコ、ショウジョウバエ、グラインダルワーム、ヨコエビ、大きく育てたブラインシュリンプ−これらを代わる代わる卵生メダカに与えられたら最高である。
何と言っても、産む卵の量が断然違う。それから餌をやりすぎて水を悪化させる心配がまったくない。よく生餌は雑菌を持ち込むからと嫌う人がいるが、あまり神経質になりすぎる必要はない。
自然界には水槽よりはるかに多くの雑菌や寄生虫が住んでいるのだから。ただイトメの使用だけは注意した方がいい。ベテランにはイトメを愛用する人もいるが、他の生餌に比べて腹水病を惹き起す危険が格段に高く、また脂肪が多すぎるために太った体型になりやすい。
- 6.3:生餌の入手法
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生きアカムシは通年で通信販売をしてくれるショップがある。ただし夏場はすぐに死んで腐りやすい。生きアカムシは冬場向きの生餌だ。冬なら大き目のタッパに入れて屋外に出しておき、毎日水を換えていれば、10日くらいもたせることが出来る。
黒ボウフラは夏の餌。アカムシに比べて柔らかいようで、魚が飛びついてくる。特に黒ボウフラのサナギはメスを抱卵させるのに非常に効果がある。バケツにピートや田土などを入れておいて、木陰など、いかにもやぶ蚊が増えそうな場所においておけば、すぐに増えてくれる。墓場の水には黒ボウフラが多いという説もあり、熱心な人は夏になると墓場にボウフラ採集に行ったりするほどだ。
ミジンコは春から初夏にかけての餌である。特に農薬を使っていない田んぼでは、五月になると無数のミジンコが発生している。これまた卵生メダカの嗜好性は非常に高い。 ミジンコと同時に採集することが出来るホウネンエビも、卵生メダカの最高のごちそうである。採集してきたミジンコを、田土を敷いた適当なバケツやプラケに入れておくといい。 ミジンコはちょっとした環境変化ですぐに消えたりもするが(卵生メダカとは比べ物にならないくらい繁殖が難しい!)、いつのまにかまた増えていたりする。 ミジンコが増えていたときに卵生メダカに与えれば、「おやつ」として非常に重宝する。ミジンコを増やすにはかなりコツがいる。ミジンコはあるとき突然消えたりするので、複数の容器を用意する。 もちろん大きいほどよいが(海外の愛好家は庭にミジンコ用の池を掘ったりする人もいる)、 3リットル程度のプラケでもよい。春から秋に かけてはミジンコ容器は屋外に置く方が成績がいい(ただし盛夏はあまり直射日光が あたらない場所の方がよい)。冬は屋内に取り入れるしかないが、できるだけ日当た りがいい場所に置く。まずたっぷりの水で藁(わら)か麦(3リットルに10粒程度) を煮る。栄養たっぷりの水を作るわけである。水が室温になったらグリーンウォー ターを少々加え、ミジンコの種を入れる。そして稚魚用の餌(ドジョウ研のクローと かキョーリンのもの)とビール酵母をお湯で解いたものをスポイントで与える。数日に一度、水が澄んできたら、この餌を与えるのである。また藁か麦を煮た水を加える と爆発的に増えたりする。そして出来るだけこまめにまびくようにする。鶏糞を混ぜ た田土を敷いておくのが一番よいとも聞くが、なかなか素人ではそこまで出来ないのが実情だろう。ブラインシュリンプは10リットル程度のプラケに海水を入れ、エアレーションをして、孵化させたブラインシュリンプ幼生を少量入れ、クロレラやグリーンウォーターやエビオス酵母を微量餌として加えて育てる(ヨーロッパではブラインシュリンプ用の餌をショップで売っていたりするのだが)。順調に行けば20日くらいでかなりの大きさになるが、飼育は決して容易ではない。これまたミジンコと同じく、卵生メダカよりも飼育繁殖は難しい。ただしドイツではブラインシュリンプ専用の液体飼料を売っており、これを使うと非常に簡単に成長してくれる。
グラインダルワーム
ブラインシュリンプと粉末の餌・グロウ生餌として特におすすめなのがグラインダルワームである。これは普通土の中に住んでいる白い線虫で、タッパに5ミリから2センチくらいの厚さのスポンジを敷いて湿らせ(絞ったら水が出るくらいかなりたっぷり湿らせる)、その上にほんの少量のパン粉を餌としてばらまいておくと、勝手に増えてくれる。そしてスポンジの上に小さなアクリル片を置いておくと、そこにへばりついてくるので、それをとってメダカにやるのである。水の中でも数日は生きているので、残餌が水を汚す心配もない。もちろんショップで売ってはいないので、これをもっている愛好家に分けてもらおう。この餌は卵生メダカ繁殖に必須と言ってもいい(第11章の稚魚育成法を参照)。グラインダルワームを増やすコツは、スポンジをかなり湿らせること、毎日少量ずつ必ず餌をやることである。またスポンジにゴミが溜まって腐敗すると、すぐに消えてしまうので、必ずグラインダルワーム飼育のタッパは複数作っておく。スポンジの培養地が悪くなって腐臭がしたら、すぐにスポンジを水洗いしてリセットする。
なおブラインシュリンプが食べられないくらい小さな稚魚(プレシオレビアスの仲間やパピリオレビアス・ビッターイ)の場合の特殊な餌としてワムシがある。海水魚用のワムシを売っているショップもあるが(日海センター:ワムシを漉すネットも入手できる)、淡水のワムシの方が水を汚さない。ミジンコを増やす場合と同じく、3リットル程度の水に藁か麦を10粒程度入れて煮る。室温になったらそこにグリーンウォーター少々とワムシの種を加えるのである。ワムシの種は一般には売っていないので愛好家に分けてもらう。このブラインシュリンプが食べられる一般の種類の稚魚の場合でも、最初の数日このワムシを補助の餌として与えると、成長がよいようである。
いずれにせよ「餌」は日本の卵目飼育で一番遅れている部分の一つである。小さいときはブラインだけ、大きくなったら赤虫だけ−これではメダカがかわいそうだ。それに少しサイズが大きくなった稚魚の場合、ブラインだけではどうしても大量に与えねばならず、そのせいで水が悪化して稚魚を全滅させるということがよく起こる。小学校の給食メニューのようだが、与える餌の理想は次のようなものだろう。
1)孵化したばかりの稚魚:ブラインシュリンプをメイン、ワムシと(ここでは紹介しなかったが)マイクロワームを補助食として。
2)10日〜20日くらいの稚魚:小さめのグラインダルワームをメインに切り替え、ブラインシュリンプや小さめのミジンコを補助食として。
3)2センチ強の幼魚から若魚まで:グラインダルワームとミジンコと小さなボウフラ(非常に役に立つ!)と小さな赤虫をメインに。ブラインシュリンプはほとんど使わない。
4)成魚:赤虫、ボウフラ、ボウフラのさなぎ、川虫、(ここでは紹介しなかったが)ホワイトワーム等(釣り用の冷凍アミを与えている人もいる)。
- 6.4:残餌処理用のラムズホーン
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生餌の場合は残餌の心配はないが、冷凍餌ではどうしても水の悪化が気になる。そんなときに大活躍するのが、今やアクアリストに嫌われてすっかり店頭で見かけなくなったレッドラムズホーンである。
これはメダカ飼育の必須品で、イシマキガイなどとは比べものにならないくらい効率的に、残った餌を片付けてくれる。特に、残餌による水質悪化に敏感な稚魚水槽では、本当に重宝する。小さなプラケにフィルター代わりの20匹以上のレッドラムズホーンを入れている人もいるくらいだ。さるベテラン愛好家の家で、0.5リットルのプリンカップの壁面一杯に、無数のラムズホーンがへばりついている光景を見たこともある。このカップではアフィオセミオンの上級種セレスティの稚魚が20匹くらいしごく元気に泳いでいた。餌のブラインシュリンプが仰天するほど大量に与えられていたが、不思議なくらい水は澄んでいたし、もちろんエアレーションなどまったくなかった。ラムズホーンの水質浄化能力、恐るべしである。なお貝の糞は良性バクテリアの絶好の住みかになるようで、水換えのときに全部吸い出してしまわないようにする。レッドラムズホーンの「ご利益」に目覚めてしまうと、どれだけこの貝がいても、まだ足りないような気さえしてくるだろう。
卵を産み付けているレッドラムズホーンラムズホーンは、いくらでも増えそうで、意外と増やすにはコツがいる。どんな小さなケースでもいいから、ラムズホーン専用の繁殖水槽を作ることを勧める。まずケースはガラスではなくプラスチック。なぜかプラケの方がラムズホーンは増える。そこに水槽の捨て水とウィローモスのような水草をたっぷり入れる。そこに大き目のラムズホーンを種親として入れ、餌には冷凍アカムシの残りやブラインシュリンプの残り、そして「スネールホイホイ」や「スネールの餌」(どちらもショップで売っている)をたっぷり与える。
どうしてもラムズホーンが増えないなら(意外によくあることなのだが)、次のやり方をすすめる。つまり、メダカを飼育している水槽のうちで、最低でも一つくらいはラムズが増えている水槽があるはずである。こういう水槽を、メダカが死んだ後もそのまま放っておいて、たっぷりスネールの餌やブラインシュリンプの残りを与えて、ラムズホーン繁殖水槽にしてしまうのである。こんな水槽は、どれだけ餌を大量に与えても、驚くほど水が澄み切っているはずだ。
夏場は屋外に20リットルくらいのケースを置いて、そこでラムズホーンを大量繁殖させている人もいる。屋外飼育した方が確実にラムズホーンは増えるようだし、屋内飼育にありがちな殻の脆弱化も起らない。屋外に衣装ケースを置いてラムズホーンを増やしている人は、蓋をしてボウフラが繁殖しないようにしているとか。ただし家族から蚊の苦情が出ないなら、屋外ケースでラムズとボウフラが繁殖できれば一石二鳥だろう。いずれにせよラムズホーンの大量繁殖のコツは、大量の動物質の餌だ。餌が少ないと彼らはすぐに死んでしまう。
またラムズホーンは水質の「センサー」としても格好である。水の悪化を見分ける方法の一つが、ラムズホーンが水槽の縁を伝って水面近くに全部上がってきたりしていないかをチェックすることだ。もしラムズホーンが水底で落ち着いていなかったら注意!底の水が淀んで悪くなっている証拠である。また、どうしてもラムズホーンが自宅の水槽で増えない人は、どこかしら水質に問題があると考えてまず間違いない。ラムズホーンがまったく増えない家では、メダカも絶対に増えない。少々手厳しい言い方になるが、ラムズホーンを入れても入れても死ぬようなら、メダカを飼う前に、まずラムズホーンを飼えるようにすることが先決である。逆に言えば、ラムズホーンがどんどん増える水で飼えば、たいがいのメダカが繁殖できる。