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著 岡田 暁生

8:温度のこと

8.1:一般原則

アフィオセミオンは低温派、ノソブランキウスは高温派、シノレビアスは適応範囲が広い。適温はアフィオが18 度から23 度、ノソが23度から28度、シノレビアスが20度から28度くらい。一般的に卵目は低温には強く、アフィオやシノレビアスで15度(ニグリピニスやアレキサンドリーは10度を切っても大丈夫)、ノソで18度くらいならまず問題はない。冬場ヒーターを入れずにマンションで飼うことは十分可能だ。

シンプソニクティス コスタイ

むしろ卵生メダカは適度に(というか「かなり」)温度変化があった方が産卵の刺激になるようで、ヒーターで常時一定の温度に保つよりは、朝昼晩/春夏秋冬の温度変化をつける工夫をしてやった方がいい。これは特にアフィオセミオンの仲間(そしてそれ以上に南米のリヴルスの仲間)について言えることである。

8.2:季節ごとの注意点−冬と春/秋

卵生メダカが一番飼いやすいのは冬である。冬場の注意点としては暖房の故障くらいだろうか。ヒーターが故障しても、最低10度は保てる部屋でメダカが飼えれば一安心だ。暖房が切れたら一気に外気と同じくらい室温が下がってしまうなら要注意。部屋暖房の故障で室温が5度くらいに下がってしまって、飼っていたメダカを全滅させてしまった話をたまに聞く。
春と秋も卵生メダカにとってはいいシーズンである。何せこの季節は温度変化が多いので、特にアフィオセミオンの産卵には格好だ。ただし逆に言えば、温度に絡む突発事故が置きやすいのもこの季節。まず3月には、暖かい日が続くので部屋暖房を切っておいたら、ある日いきなりとてつもなく寒い日が来て、魚が大ダメージを受けたということがありがちだ。逆に、やや寒い日が続いたので部屋の暖房を入れてままにしておいたら、急に暖かい日になり、暖房を入れているせいで室温がいきなり夏並の30度近くに上がっていたなどということもある。特にアフィオセミオンの上級種の場合、これは致命的なダメージである。アフィオセミオン上級種の場合、4月と5月の早すぎる夏日も要注意。たまたま運悪く一泊して家を空けた日に、突如として気温が30度近くに急上昇し、帰ってみたら低温を好むアフィオセミオン上級種が全滅していたなどということも、大いにありうる。経験的に、秋は春ほど神経質になる必要はないように思うが、いずれにせよ春と秋は温度が不安定になりやすい。特に適応温度が狭いアフィオセミオン上級種を飼っている人は、天気予報の最高・最低気温の欄は必ず見ておくくらいのことをしてもいい。

8.3:夏場対策

卵生メダカの飼育で一番苦労するのが夏場である。特に低温を好むアフィオセミオンの上級種を飼育している人にとって、夏は地獄のシーズンだ。高温好きのノソブランキウスの場合、アフィオセミオンほど夏対策に悩まなくてすむし(従って夏場のクーラーが使えない人にはノソがおすすめである)、温度の適応範囲が広いシノレビアスの仲間もしかり。しかしながら、どんな魚を飼っているにせよ、夏は一年で一番飼育が難しいシーズンだ。ちなみに卵生メダカをやってみると、日本の都会の夏がいかに異常に暑いか、つまり熱帯ジャングルがどれだけ涼しいか、いやと言うほど実感できる。

まず年魚を飼っているなら、夏場は卵か稚魚(稚魚は成魚に比べて高温に強い)でやりすごしてしまう飼育ペースにもっていくのも、一つのやり方である。夏に成魚が死んでも仕方がないと割り切って、卵だけはしっかり確保しておくようにするのである。
いずれにせよ、温度が25度を超えたあたりから、水は加速度的に悪化しやすくなる。夏場はどんな卵生メダカでも、冬場と比べて、ちょっとした水質悪化で落としてしまいがちだ。夏場の注意点を列挙しておこう。

  1. 飼育水に塩を入れることを忘れない。温度の低い冬場なら塩がなくてもさして問題ないのだが、水が悪くなりやすい夏場に塩を怠ると、あっという間にコショウ病(後述)にかかる。
  2. 意識的に餌を減らす。人によっては−この人はクーラーの効いていない部屋で3リットルのプラケでもって低温魚ブアルナムを多数飼育繁殖しているというとんでもない人なのだが−6月あたりから「夏モード」に入れるのだそうだ。つまり餌を4日に一度しか与えないようにするのである。当然メスは抱卵しないが、夏場は採卵のことを忘れて、ひたすら維持に徹するのも手だ。ただしこれはアフィオセミオンの場合の裏技で、シノレビアスやノソブランキウスといった年魚の場合は、夏の本格的な到来の前に卵をとってしまって、卵で夏をすごす方が現実的だろう。
  3. 同じく意識的に冬場よりも水換えのペースを早める。あるいはコンディションが非常によい水槽なら、与える餌を減らすことで、水質のバランスをとるようにする。水換えペースを早めるか、餌を減らして水換えもあまりせずにバランスをとるやり方をするかは、経験と勘によるものとしか言いようがない。
  4. 底に沈みやすいウィローモスやアフィオセミオンの産卵モップ(後述)などには、特に夏場、腐敗の元になる底のゴミがたまりやすい。2)で述べたブアルナム高温飼育の名人など、夏になると繁殖は断念して産卵モップとウィローモスを取り除き、その代わりに水槽のまんなかあたりで浮いていてくれるニテラやマツモ(喧嘩防止に必須)に取り替えてしまうそうだ。
  5. エアレーションやフィルター(フィルターを複数入れる)なども絶大な効果があることは言うまでもない。とりわけ(当然と言えば当然だが)容量の大きい水槽(60センチ以上)に移動するのも非常に効果がある。
  6. これは4で述べたこととも関連するが、夏場には水槽の底が淀んで悪化しやすいので、とりわけ底水のかきまぜには一層の注意を払うようにする。この底水の問題は、いくら強調してもしすぎということはない。
  7. たとえ昼間に温度が28度前後に上昇したとしても(30度を超えてしまったらほとんどの卵生メダカにとって絶望的だ)、夜間に何とか25度以下になるように工夫する。
8.4:アフィオセミオン上級種の場合

20度前後の水温以外受けつけないアフィオセミオンの難魚の場合、クーラーが使えない人が購入しても、夏場を越すことは120パーセント不可能だ。ジョーゲンシェーリ、ディアプテロン、セレスティ、カメロネンセ、ハネローエといった種類がそれである。よほど飼育テクニックのある人でも、クーラーが使えないなら、もう最初からこれらの飼育は諦めた方がいい。決して安いとはいえないこれらの魚を購入しても、クーラーがなければ、確実に夏場に死んでしまうだろう。死ぬのが分っていて購入するのは殺生というものであろう。これらの種類を飼育している人は、温室を作り、夏場のクーラーの設定を20度前後にしている人がほとんどだ。


レプトレビアス フルミネンシス

ただし、「高温に極端に弱い」とされるアフィオの上級種だが、海外の雑誌に「(高温に弱いことで知られる)ディアプテロンも、水質に万全の注意を払えば25度でも産卵するし、28度くらいになっても死なない」という記事が出ていたのを読んだことがある。実際(これまた22度くらいまでで飼育しないとだめとされている)ブアルナムやセレスティの仲間を、夏場に25度くらいで繁殖させている人もいる(とりわけ低温を好むことで知られるカメロネンセでも、水温が23度から27度くらいを上下している状態であれば、卵をある程度産んでくれることもある)。低温を好むとされる種類も、実は温度そのものが低いことが必要であるというよりは、むしろ水温が上がることによる水の淀みに極端に弱いのかもしれない。また、夏場の昼間に高温になっても、夜には再び水温が下がるような環境だと、かなり生存率は高くなるようである。


アフィオセミオン カメロネンセ BSWG 99/19

ただし、それもこれも、ブアルナムやセレスティといった、アフィオの低温魚の中では「難易度の低い魚=高温(?)にある程度耐える魚」の場合の話であって、ジョーゲンシェーリやカメロネンセの仲間(マキュラタムやミンボンを含む)やホフマニー・グループ(アフィオ・マニア垂涎の美麗魚ハネローエなど)は、クーラーがない人には絶対不可能だ。これらは誇張なしにイワナのような魚である。
なお、アフィオセミオンの低温魚を飼っている人が時々見舞われるのが、夏場のクーラーの故障である。慎重な人は、温室にクーラーを二基つけているとか。落雷による停電で気がついたら室温が35度に上がっていて、ディアプテロンやカメロネンセが全滅したという話を聞いたことがある。アフィオセミオンの上級種の場合、上に列挙した夏場の注意点をいやが上にも励行したい。と言うよりも、これらを厳格の上にも厳格に実行しない限り、夏を越すことは不可能だろう(クーラーを18度くらいに設定するなら話は別だが)。


レプトレビアス フルミネンシス

以上、色々夏場の急場しのぎのやり方を書いたが、一つだけ、一番単純で絶対確実な方法がある。それはペアを60センチ以上の大水槽に移動してしまうやり方だ。これなら少々温度が上がっても、餌を控えめにする限り、確実にどんな種類でも夏は越せるはず。この贅沢が出来ないから困るだが・・。もちろん実験したことはないが、120センチ水槽なら、たとえ夏場の温度が28度くらいになっても、アフィオの上級種を楽々飼えるのではないだろうか。

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