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著 岡田 暁生

11:稚魚の育成

稚魚の育成は卵生メダカ飼育の最大の醍醐味の一つであると同時に、最も飼育者の個性やクセや技が反映される部分でもある。従って一般論を述べるのは非常に難しい。例えば自営業などで一日中稚魚の傍にいてやれる人と留守がちの人、長期出張が多い人とそうでない人、生活ペースが一定している人とそうでない人によって、かなり飼育スタイルが変わってくる。気の短い人と気の長い人、大胆な人と神経質な人、おおらかな人と細かすぎる人、慎重な人と雑な人といった飼育者の性格の問題も、とりわけ稚魚の飼育には露骨に反映される。さらには、「少しでも多くの稚魚を少しでも早く大きくして皆に自慢してやろう」といった「欲」を出した途端に稚魚が全滅してしまうなど、稚魚飼育には怖いくらい飼育者の「心」が映し出されるとすら言える。稚魚育成に定まったマニュアルはない。各自が「自分の」飼育法=スタイルを見つけなければならないのである。卵目の稚魚育成はいわば永遠の「自分探し」のプロセスである。ここで述べるのはあくまで一般原則にすぎないことを、予めご了承いただきたい。ただし幾つかの単純かつ根本的な原則はある。

  1. 稚魚は出来るだけ大きな水槽で飼うべし。大きな水槽が使えないなら、大量の稚魚を孵化させない工夫をする。「これで本当に大丈夫だろうか?」と思うような大きめの水槽で飼うくらいにすること。
  2. 稚魚は絶対に新鮮な水で飼うこと(稚魚が孵化するのは現地の雨季であることを忘れずに)。これは特に年魚の場合の鉄則である(非年魚の場合は、大量に餌を与えて水が悪化したりしない限り、ある程度水をそのままにしておいてもいい)。
  3. 出来るだけ早くブラインシュリンプ以外の餌に切り替える。稚魚全滅の最大の原因がブラインのやりすぎである。コツは「ブラインを大量に沸かさない」である。餌があるから与えすぎてしまうのであって、最初からあまり餌を用意しないのである。これは意外と重要なポイントだ。それから出来るだけ早くグラインダルワームやミジンコや小さなボウフラへ切り替えること。
  4. 水槽の移動回数を出来るだけ避ける。はじめの1〜2週間だけプラケで飼育して、一気に30センチ以上の繁殖水槽に移動してしまう。

    Nothobranchius rachovii Beira98

    あるいは最初から30センチ以上の水槽に入れ、最初は餌が見つけやすいように水深を浅くしておいて、徐々に水を足していき、水槽移動をする必要がないようにするといった工夫が要る。
  5. 稚魚をダメにする理由は水換えの遅れおよび餌のやりすぎ以外にはまずない。
  6. 稚魚は絶対に毎日きちんとチェックする(従ってよく見える場所、照明のよくあたる場所へ水槽を置く)。特に調子にのってアバウトな餌やりを絶対にしない。これはきわめて重要なポイントである。よく観察できない場所に置いたプラケの稚魚は、たいがいダメにしてしまう。原因は言うまでもなく、餌を知らず知らずのうちにやりすぎていること、水の色がよく見えないので水換えが遅れることである。
    問題は、これらの「基本」をいかに完璧に遂行するかなのだが、これが本当に難しい。
11.1:稚魚育成水槽の必需品

稚魚を育てる上で絶対になければならいのは、以下のものである。

  1. 水草:水中にはニテラやウィローモス、水面にはリシアや浮き草を入れる。水草の調子を上げるためにも、稚魚をよく観察するためにも、照明は強い方がよい。
  2. レッドラムズホーン

    レッドラムズホーン:いくら数を入れても入れすぎということはない。ラムズホーンが壁面にびっしり(20匹以上)這っているような0.7リットルほどのプラケで大量のアフィオ稚魚(それも決して易しいとは言えないセレスティ!)を飼育しているベテランを見たことさえある。とにかくラムズホーンが大量にいれば、残餌の心配がなく、水質浄化に絶大な効果がある。なお、既に述べたように、ラムズホーンが水面上に上がってくるようだと、水質が悪化している兆候である。とはいえ、ラムズホーンが死ぬと水を悪化させるし、このあたりが実に難しいのだが。
  3. プラスチックケースは必ず使い込んだものを使う。新品のプラケは一見清潔そうに見えるが、絶対に使わないこと。浄化バクテリアの繁殖に不都合で、水質を悪化させやすい。
  4. 必需品というわけではないが、軽いエアレーションは水質保全に非常に役立つ。やはり初心者のうちはエアレーションをした方がいいだろう。小さなスポンジフィルターを使ってもいい(スドーから発売されている)。3リットルほどのプラケにスポンジフィルターをつけて、ラムズホーンを大量に入れておけば、水質に関しては万全である。またエアレーションをしておくと、ブラインシュリンプが適度に水中に舞って、すべての稚魚に行き渡ってくれるので、いいことずくめである。ただしどれだけエアレーションなどをしても、大量の稚魚に大量の餌をやっていれば急速に水質が悪化することに変わりはない。逆に言えば、数匹しか稚魚がいなければ、2週間くらいプラケの水を換えないでも大丈夫なこともある。
  5. 飼育ケースにピートを入れるかどうかについては、様々な意見がある。確実に言えるのは、ピートを入れた方が水質は圧倒的に安定することである。特に1センチから2センチくらいの厚さでピートを敷くと、水換えの手間は相当省くことが出来る。だが、ピートを敷く方法にもリスクはあって、このやり方だと、しばらくは水の調子が非常にいいのだが、ある時点でピートの底が腐敗して、突如として稚魚が全滅するといったことが起こりがちだ。逆にピートを入れない状態で飼うと、頻繁な水換えが必要になってくる。また慣れないうちは、いつまでたっても水が安定せず、従って毎日のように水を換え、結局水質を悪化させてしまうということが起こりがちである。それならばミニフィルターをつけてラムズホーンを大量に入れた方が安全だろう。
  6. ミジンコを入れておく。ミジンコは水質を浄化してくれるし、その仔が稚魚の餌になる。いいことずくめである。

11.2:最初の十日間(特に年魚の場合)

稚魚の成長ペースは様々な条件によって大きく異なるが、目安として最初の10日間のプラケのサイズと餌量について述べよう。稚魚がまだ水中に漂っているゴミくらいにしか見えない時期である。まずプラケのサイズだが、飼育ペースや餌の量や水換えの頻度やエアレーションの有無によって大幅に変わってくるので、一般論は述べにくい。目安としては数匹の稚魚の場合で1.5リットルの最小のプラケ、10匹前後で3.5リットルのSサイズ、20匹近く要れば8リットルくらい(Mサイズ)が適当だろう。ベテランになると20匹くらいの稚魚を1.5リットル水槽でずっと育て上げたりするが、初心者は真似をしない方がいい。なお、以上の目安は日本の住宅事情を考えての上での「常識の範囲」であって、本当は各々ワンランク大き目のケースを使うのが理想だ。海外の愛好家はほとんどこれを実践している。

Simpsonichthys hellneri

確実に言えるのは、少しでも大き目の容器で飼育するほど丈夫に稚魚を育てられるということである。稚魚はびっくりするくらい大きな水槽で飼っても、うまく餌をみつけてくれる。例えば5匹ほどのシンプソンクティス・ヘルネリー(稚魚は相当小さい)を最初から10リットルほどの水槽で飼ったことがあるが、一匹も落ちることなく成魚になってくれた。そもそも大きい容器になるほど水質が安定するし、小さな微生物が勝手に沸くのであまり餌をやらずともよく、何かと稚魚を死なせる原因になりやすい大き目のケースへの移動の回数が減り、いいことづくめなのである。最初からスポンジフィルターをつけた30センチ水槽に稚魚を入れ、当初は水深を浅く保ち(3センチから5センチ)、徐々に水を足して水深を深くしていく方法をとるベテランもいる。通常の水換えの代わりに、毎週一度、数センチずつ水位をあげていって、水槽が満杯になった頃には稚魚がそろそろ幼魚になっているというわけである。そして魚が大きくなってきたら、繁殖に使うペアないしトリオだけを残して、残りの魚は順々に別の水槽に移動させてしまう。あるいはオスが判別した段階で、繁殖用の最強の1匹を残して、すべて予備水槽へ移していき、孵化させた水槽の中でハーレム方式で繁殖させる人もいる(予備混泳水槽に入れても、オスならきちんと判別できるし、繁殖にはハーレム形式が一番である)。「揺り籠から墓場まで」方式である。

この時期の餌は、もちろんブラインシュリンプ幼生である。孵化させたブラインシュリンプ幼生をまずスポイトでガラスコップなどに一部分とって、水で少々薄める。これはブラインシュリンプの量を確認するためで、孵化容器からスポイトで吸っていきなり水槽に入れると、ややもすると稚魚が食べきれない量を誤って与えてしまいやすい。餌の目処は最初の数日で、やや薄めのブラインシュリンプを、数匹につき1滴くらいだろう。これを一日二回程度やるのが標準である。餌は必ず少ない目に与えてみて、食べるところを確認し、まだ食べたりない様子が見られれば少しずつ追加するというやり方をする。こうしていれば、おのずと適度の餌の量が分かってくるはずである。くれぐれも稚魚の餌食いをろくに観察せずに餌を与えることはしないこと。なお稚魚はあきれる程餌を大量に食べるので、平日は朝と晩の2回、週末は1日4回程度の餌をやる人もいる。だがベストなのは、少量ずつ、出来るだけ頻繁にやることである。

稚魚育成技術の90パーセントは、「適度の餌やり」「適度の水換え」「大き目の水槽への手際のいい移動」に尽きる。餌やりについて言えば、特に初心者のうちは「少なめ」、そして「稚魚の様子を見ながらの餌やり」を心がけてほしい。餌をやらなくとも死ぬのは数匹だが、大量の餌やりは稚魚全滅を引き起こす。また朝にはやや多い目の餌をやり、晩は夜食程度の少なめの餌量にするのもコツである。あるいは初心者のうちは、消灯時間の数時間前からは絶対に餌をやらないといった工夫も、残餌を出さないうえで必要だろう。

ミジンコ

この時期の水換えペースは、これまた餌の量等に大きく左右されるが、3日に一度半分以上の水換えをすれば無難である。なぜ3日かと言えば、まず1週間に一度では水質悪化のリスクが生じてしまう。逆に毎日水を換えると、もちろん(水換えの手際がよく種水が安定しているという条件つきだが)これが一番よいに決まっているが、稚魚が新鮮な水に慣れてしまっているせいで、わずか2日水換えを怠っただけで全滅ということが起こるのである。4日程度水換えをせずとも大丈夫なように、水換えのペースをやや遅めにして、最初から稚魚を少々の水の老化には耐久力があるようにしておいた方が、留守をしたりするときによいように思う。

11.3:水の換え方

稚魚水槽の水を換えるときは、もう一つプラケを用意して、水槽を傾けてそこにザーッと静かに水を流し出す。一緒に稚魚が流れてしまうこともあるので、プラケで受けるわけである(流れた稚魚はスポイトで吸うなどして再び戻す)。水を足す際には、種水をコップですくって、あまり水をひっかきまわさないように、手のひらで受けながらぴちゃぴちゃといきなり注ぐ人もいるが、初心者のうちは慎重にサイフォン方式で足し水する方がいいだろう。温度調整や種水との塩分量の違いなどに神経質になる必要はまったくない。なお水換えの時も、出来るだけ底水の巻上げには注意を払いたい。

また稚魚水槽の水を換えるときのコツの一つは、水を流し出した際に、プラケの壁面のぬめりを手でぬぐって出来るだけ除去しておくことである。なぜかぬめりが発生したプラケは水が悪化しやすい。またレッドラムズホーンを大量に入れてあるプラケは(常時ラムズホーンが壁を舐めているせいか)ぬめりが出にくいようだ。二度換えも有効である。まず水槽の水をほとんどすべて捨ててしまう。水が1センチくらいになったら、水槽を軽くゆすって底のゴミを舞わせ、それも水槽を傾けて捨ててしまう。そしてプラケに一度水をサイフォン方式で静かに足し、再びその水もすぐに捨ててしまって、それから加水していくのである。ベテランになると、汚物の沈殿が限界に達したと感じると、網で受けながらプラケの水を全部捨て、網にひっかかったピートや水草や稚魚をもう一度プラケへぽいと入れ直し、そこに種水をいきなり注いだりする。汚物が溜まった底水の中に中途半端に稚魚を泳がせておくよりは、この乱暴なやり方の方が汚染で稚魚を傷めるリスクが少ないとのことである(ただしこのやり方は稚魚が1センチ以上に育っている場合に限られるが)。

11.4:十日目から二十日くらいまで(特に年魚の場合)

孵化して10日から2週間も経てば、年魚の場合、稚魚は目に見えて大きくなってくる。「小魚」になってくるのである。ここから、オスメスの判別がそろそろつき始める20〜30日目くらいまでが、実は一番失敗をしやすい時期である(孵化直後の稚魚は意外と丈夫である)。つまり餌の量が加速度的に増えてくるので、つい餌をやりすぎて水を腐敗させやすいのだ。逆に、水の悪化を怖がりすぎて餌量を節約しすぎると、いつまでたっても大きくならず、そうこうしているうちに稚魚を落としてしまうということも起こりがちだ。特に過密飼育している場合、この危険が飛躍的に増大する。大量の稚魚が孵化してぬか喜びしたのも束の間、天国から地獄、手痛いしっぺ返しを食らって泣きを見るのが、この時期である。後で述べるが、大量の稚魚が孵化したときほどやっかいなものはない。多くの稚魚がいると、餌をやってもやってもまだ足らず、発育が遅くなり、焦ってまた大量の餌をやって、ある日稚魚が全滅してしまうということになりがちだ。

Simpsonichthys carlettoi

また無事育ったとしても、ヒネてしまいいつまでたってもフルサイズにならなかったり、ノソやシンプソの中級種以上(フルミナンティスやマグニフィカス)だと、腹に白い吹き出物が出たりといったことが、必ず起こる。ベテランですら稚魚を絶やしてしまうのは、稚魚が増えすぎたときである。おまけに、種類によってはそろそろ激しく喧嘩を始めるようになり、小さなスレ傷から病気が発生して、水槽中にそれが蔓延して稚魚全滅といったことが起こってくるのも、この時期からである。稚魚同士の半端ではない激しい喧嘩は、特に南米年魚のカンペロレビアスやレプトレビアス、ディアプテロンの仲間、とりわけ「ファイティング・ガウチョ」ことメラノタエニアの場合に起こりやすい(こうした場合は水槽一杯に足の踏み場ならぬケンカのする場もないくらいにニテラやウィローモスを詰め込むのがいい)。

水質悪化の危険を避ける一番いい方法は、(後でも述べるが)大量の稚魚を孵化させたりしないこと、万が一大量の稚魚が出てしまったら、この時期を境に一気に30〜45センチ(場合によっては60センチ!)に稚魚を移動してしまうこと、そしてこの時期を目処に餌をブラインシュリンプ幼生からグラインダルワームに切り替えるやり方だ(もちろんグラインダルワームにも小さいものから大きいものまであるので、サイズは稚魚の大きさにあわせる)。グラインダルワ

Aphyosemion marginatum

ームは水中で数日は確実に生きているので、残った餌で水を悪化させる心配はまったくない。生まれたての極小ボウフラやミジンコも最高の餌である。これらは、たいした量をやらずとも、ブラインシュリンプとは比べ物にならないくらい、魚の成長が早くしてくれる。なお、人によってはイトメを刻んでやる人もいるが、イトメは病気を発生させやすいので注意のうえにも注意が必要である。餌の量が増え始めた時期から、いかに一気に3センチ程度にもっていけるかが、稚魚飼育の大きなポイントの一つである。しばしば、それまで健全だった稚魚が、2週間目くらいからよく分からない理由で全滅してしまうということが起きる。この場合の原因は、ほぼ間違いなしに、ブラインの与えすぎ(=グラインダルワームなどもっと大きく、水の中で生きていて、水を悪化させない餌に切り替えるのが遅れたため)だと断言できる。

また喧嘩防止のために、水中にニテラを配しておくことを忘れてはならない。あまり性格が荒くない稚魚でも、水中に水草のないがらんどうのケースで飼うと、突っつきあいを始めて病気を発生させてしまうことがある。なお水槽のサイズをワンランク大きなものに換える必要が出てくるのも、この頃からである。大き目の水槽に稚魚を移動したら、スドーのミニ・スポンジフィルターなどをとりつけて万全の水質保全を期してもいいだろう。

11.5:稚魚の病気

稚魚の病気はまず治らない。それどころか、1匹でもヒレをすぼめている稚魚(あるいは死ぬ稚魚)が出たら、まず数日以内にすべての稚魚に病気が蔓延して、全滅すると思っておいた方がいい。こういう場合は、水を換えたり、塩を加えた程度では効果がない。換水をして一見水がきれいになったように見えても、相変わらず数日ごとに数匹ずつヒレを閉じては死んでいき、最後は全滅ということになりかねないのである。こういう場合には、上に述べた「二度換え」方式で徹底的に水を新しくしてしまうか、一番よいのは別にもう一つ水槽をセットして、稚魚をそちらへ移動させてしまうことである。後者の場合、飼っている水槽の水を出来るだけ捨て、底のゴミもプラケをゆすって水中で舞わせてから捨ててしまって、稚魚を最小限の水と一緒に新しいプラケへ移す。このやり方だと、ショック死する稚魚が数匹出ることもあるが、それは既に弱っていた個体であって、少なくとも、まだ健全な状態でいてくれている稚魚は確実に救出することが出来る。そして数日間、水が安定するまで、餌は控えめにする。繰り返すが、一匹でもヒレを畳んでいる稚魚がいたら、確実に数日後にはすべての稚魚が全滅するだろう。即刻その水槽のすべての水を捨てて、別の大きな水槽へ一気に移動してしまおう。

11.6:もう一度基本のおさらい

何度も恐縮だが、稚魚飼育の原則は実に単純である。「出来るだけ大きな水槽に最初から入れる」「水槽の移動を出来るだけ減らす」「絶対に過密飼育にしない」「水は常に新鮮に保つ」「餌をやりすぎない」「ブラインから出来るだけ早く別の餌に切り替える」。これくらいである。カンペロレビアスやアフィオセミオンの一部の種類のように、稚魚が非常に気が荒い場合は、ここに「ニテラ等を水中にぎゅうぎゅう詰めにして喧嘩も出来ないようにする」が加わる。稚魚をだめにするときは、上の理由以外にはまずありえないと思うべし(よほど特殊な難種は別だが)。

これらの稚魚育成の基本は、とりわけ魚が成長してからの産卵数や、その魚を「他人にあげられる丈夫な魚」に育てられるかどうかに深く関連している。少々基本を守らずとも、中級以下の魚なら、少なくとも自分の家の水で育てている限りは、結構そのまま成長したりする。だがこういう魚は、卵をあまり産まずにそのまま絶えてしまったり、あるいは他人にあげるとすぐに死んでしまったりと、何かとトラブルが多いのである。幾つか典型的な例を挙げよう。

  1. 稚魚の時に古い水で育てると、何となく魚の動きが淀んだようになり、産卵数は少なく、ちょっとした水質変化ですぐに頓死する。あるいは産んだ卵が消えてしまう。あるいは自分の家で多い目の水換えをしたときや、そして何よりも、他人にその魚をあげたときに、すぐに調子を崩す。
  2. 大量に稚魚を増やし、狭い水槽でガンガン餌をやり、大量に水を換えるという育て方をすると、一見元気そうに見えるし、産卵数も多いのだが、短命になりやすい。それに何より、こうした魚もまた、他人にあげたときに頓死する。初めはすごく調子がいいように見えるにもかかわらず、数日経つと、まったく予告もなしに死んでしまうのである。

こうしたトラブルを避けるためのコツを列挙してみよう。

  1. 水換えペースが3日から1週間に一度になるくらいの餌やりと稚魚の数と水量にする。フィルターをつける、水槽を大きくする、餌を控えめにする、稚魚の数を減らす等の工夫をして、ちょうどこのペースになるように加減したいところだ。
  2. 稚魚の増やしすぎはロクなことにならない!もし3リットルくらいのプラケと30センチ水槽しか使用できないのなら、10匹以上の稚魚を孵化させたりしないことだ。30匹も稚魚が出てきたら? − 初心者なら喜ぶだろう。しかしベテランなら?ベテランなら確実に「しまった・・」と頭を抱えるところだ。
  3. ではいかに稚魚を減らすか?ベテランになると、ピートに大量の卵がある場合は、ほんの一部しか浸水せず、残りは他人にあげたり、あるいは1.5センチくらいになってオスメスが判別した段階で、1トリオを残してすべて他人にあげてしまう。これは非常に重要なポイントである。
  4. ひょっとすると、たくさん増やした方が、性比の偏りも避けられるし、万が一一部の稚魚が死んでも保険になると思っている人がいるかもしれない。実はこれが大間違い。100匹孵化させても、性比が偏るときは全部がオスになったりメスになったりする。逆に、わずか二匹しか孵化しなくても、意外とペアになってくれるケースが多い。不思議なことに、二匹だけで飼育すると、相当の確立でペアになるのである(これは海外の愛好家の間でも通説になっている)。つまりペアを作るのに100匹も稚魚はいらない。5匹もいれば、そしてその5匹を理想的な環境で飼ってやれば、心配せずとも、相当の確率で1ペア+1トリオになってくれる。
  5. たくさん稚魚を孵化させておいた方が、稚魚が死んだときの保険になると思っているとしたら、これまた大間違い。ベテランなら確実に同意するはずだが、3匹しか稚魚が出なかったときは全部を健全な成魚に育てられる。しかし100匹稚魚が出たら、全滅させるか、それとも90匹を死なせて、10匹くらい腹に白い吹き出物が出たような、使い物にならないひねた成魚が残るのが関の山である。
  6. しつこいようだがもう一度。30センチ水槽しかないなら、稚魚は8匹で十分である。45センチが使えるなら15匹、そして60センチ水槽が使えて初めて20匹以上の稚魚を健全に(=他人にあげられる魚に)育て上げられる、くらいに思っておく方がいい。稚魚育成を子育てにたとえれば分りやすいだろう。小さな部屋に20人近くぎゅうぎゅう詰めにして、窓を閉め切って換気もロクにせず、毎日同じメニューの大量の給食を好きなだけ食べさせたりしたらどうなる?「大きな水槽が使えないのに、大量の稚魚を孵化させたりするものではない!」と私が再三強調する理由もお分かりいただけるのではないだろうか。これこそ累代繁殖の最大の鍵である。

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